2022年度 ゼミ

卒業論文概要

石原 茉友 「自己呈示に着目した社会科授業の改革」

 

本研究の構成は以下である。第1章では、自己呈示を手がかりに、内心と発言の不一致が起きる原因について先行研究を基に検討した。第2章では、意思決定型社会科と社会参加型社会科における先行研究の課題を明らかにした。ここでは、意思決定型社会科を提案している先行研究を自己呈示の視点から分類した。また、社会参加型社会科として、サービス・ラーニングとシティズンシップ教育を取り上げた。第3章では、前段階で明らかにした課題をもとに、p4cを用いた授業では内心と発言の不一致が起こりづらいことを明らかにした。ここでは、p4cの特徴である探求の共同体や教師と子どもの関係に着目した。第4章では、自己呈示の視点に基づいて、p4cを用いた授業、アンケート、インタビューの分析を行った。ここでは、次の4点に取り組んだ。1点目は、学校現場で行った授業を分析した。2点目は、子どもの授業前後での意見の変化をアンケートを用いて調査した。3点目は、子どもの自己呈示の有無や子どもがp4cという授業形態についてどう思っているかを分析するために、授業後にインタビュー調査を行った。4点目は、1点目から3点目を踏まえ、授業における自己呈示の実態を分析した。特定の児童を取り上げ、授業内での発言、インタビューでの発言、アンケートでの回答を比較児童の授業内での自己呈示の有無を検討した。

本研究の成果は、次の2点である。第1は、意思決定型社会科と社会参加型社会科の問題点を明らかにしたことである。意思決定型社会科は、教師と子ども、子ども同士の関係に着目し、先行研究を分析した。社会参加型社会科は、活動が形式的なものになる点を明らかにした。第2は、自己呈示の視点からの授業分析、アンケート調査、インタビューを行ったことである。これらの調査は、岐阜大学教育学部附属小学校5年生の2クラスを対象にして、得られたデータから実証的な分析を行った。得られたデータの分析は、特定の児童を取り上げ、授業内での発言、インタビューでの発言、アンケートでの回答を比較し、解釈した。この分析から、授業内での内心と発言の不一致は起きていないが、教師からの評価やクラスの人の目を気にして、発言や行動をすることがあることを明らかにした。

 本研究の課題は、以下の条件での分析結果である点である。対象学級や対象授業など条件が変わることで、分析結果が変わる可能性がある。しかし、特定の条件ではあるが、分析結果を示したことは意味がある。おそらく他の学級や他の授業内容で調査を行った場合でも同様の結果が得られるだろう。

・対象学級

岐阜大学教育学部附属小学校 5年生 2クラス

・対象授業

社会科小学校5年生の単元「わたしたちの生活と環境 環境を守るわたしたち」

・インタビュー対象

 担当学級の教師に選定いただいた子ども6

本研究で得られた成果と課題を見つめなおし、授業内での子どもの内心と発言の不一致について考え続け、自らの糧としていく。

 


遠藤貴和子「感情を原理とした社会科教育論 −若者の自己肯定感に着目して-

 

本研究では、中学校社会科の意思決定型社会科において、社会的論争問題に対して、事実に裏付けされた論理だけではなく、感情といった観点から研究を行った。

1章では、近年登場した概念である自己肯定感の定義について、整理と現状の分析を行った。日本の若者の自己肯定感が低いことや、「生きづらさ」を抱えている若者が問題となっていることについて、データを用いて分析した。第2章では、社会科における意思決定やその授業型について、先行研究の分析を行った。第1章で明らかにした実態を踏まえると、論理立てて考えられた意思決定では、感情を取り入れることができず本心とのギャップが生まれ、切実感の伴わない意思決定になる、といった問題があることを明確にした。第3章では、自己肯定感に着目した授業理論を提示した。子どもたちの自己肯定感を踏まえて、自己理解を通して自身の意思決定を受け入れ、自分で自分を承認することの必要性を明らかにした。第4章は、授業提案として、より実践的な方法で授業モデルを示した。

以上から、本研究の成果として、以下の3点を挙げたい。1点目は、これまで意思決定は資料と論理立てられた授業構成を用いることで、子どもたちは意思決定が可能であると考えられてきたところに、自己肯定感の視点を用いたことで、感情を用いた意思決定の有効性を明確にできたことである。2点目は、自己肯定感の定義について、性質に応じて分類することができた点である。3点目は、意思決定のプロセスを示すことができたことである。以上の成果から、若者の自己肯定感に着目して、感情を原理とした社会科教育論を明らかにできたと結論づける。